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百の間をつなぎたい
私の仕事は「あいだ」にあります。にほんとニッポンのあいだ、ITと匠のあいだ、風土と震災のあいだ、四半期決算とビジネスモデルのあいだ、図書館と美術館と博物館のあいだ、そして、本来と将来のあいだ。鍵と鍵穴を見つけ出し、それぞれのエッセンスをかけ合わせ、その間柄を浮き彫りにすること。「あいだ」をつなぐこと、広げること、動かすことが、これまでもこれからも私の仕事です。
「知っていること」と「知らないこと」のあいだに、たった一本でも関係線がひけると未知の世界の扉がひらきます。もっと知りたい、もっと深めたい、もっと考えたいという好奇心は、見える景色をグィッと広げてくれます。ふだんはつながらないものたちが時空や領域を超えてハイブリッドに関係し合う。そのような「あいだ」を発見し、プロデュースするために百間を設立しました。
およそ20年間、編集工学者であり知の総合プロデューサーである松岡正剛のもとで学んできました。大事にしたい心構えが3つあります。1)破格・特別・超越を大胆に組み合わせること(「もてなし・ふるまい・しつらい」の三位一体の編集)、2)唯一無二の世界観をリアル&バーチャルで出現させること(「あわせ・かさね・きそい・そろい」の方法の実現)、3)創造的矛盾を引き受けること(「遠いものには近いものを、深いものには浅いものを」という反対の一致)。従来の考え方やものの見方にとらわれずに「あいだ」を複層的に組み立てることによって、人も仕事も輝くということを身をもって体験してきました。
これから百間が手がけたい「あいだ」は日本にあります。日本のカルチャーは「あいだ」にこそ百花繚乱してきたからです。ひらがなも、枯山水も、たらこパスタも、黄瀬戸も、YOSAKOIソーランも、「あいだ」から生まれた日本。一様ではない複数形の「JAPANS」がそこにあります。リミックスを面白がる価値観や感性は、新しい「あいだ」を求めていて、「あいだ」は次のリミックスを待っています。まずは、琵琶湖のほとりから「深くて凄くて面白くて変な日本」のプロデュースを始めたいと思います。
Profile
1977年3月、仙台生まれ。高校時代にアフリカのジャングルに暮らすボノボに惹かれ、宮城県沖の金華山に住む野生ニホンザルのフィールドワークに通う。「YOSAKOIソーラン祭り」を社会心理学の観点から研究し、時代が必要とする祭りを新たに興すことに興味を覚える。
2002年3月、松岡正剛事務所に入社。古田織部にちなんで大胆破格なクリエイティブを讃える岐阜県主催「織部賞」(1997~2007年)と『松岡正剛千夜千冊』全集(2006年刊行)プロジェクトで経験を積む。2005年より松岡正剛と照明家藤本晴美が率いる日本文化塾「連塾」(全20回)の企画制作統括を担い、その経験が「知のプロデューサー」としての腕を磨くスタートとなる。その後、ネットワンシステムズ「縁座」、福原義春「蘭座」、本條秀太郎「三味三昧」、小堀宗実「本茶會」など、松岡正剛と日本文化を牽引する文化人・アーティスト・クリエイター・研究者らが丁々発止するサロンや私塾のプロジェクトリーダーを歴任。
2009年より丸善「松丸本舗」、近畿大学「ビブリオシアター」、ModuleX「光冊房」、角川武蔵野ミュージアム「EDIT TOWN」、ダ・ヴィンチストア「EDIT TOWN QUBE」ほか、図書空間の全体企画制作を統括する「BOOKWARE(ブックウェア)」を実践。また、東日本大震災復興メディア「大船渡三十六景」の企画編集、リクルートの「ユニークネス」スタディー、ネットワンシステムCI変革、ミツカンの「酢の力」や「未来ビジョン宣言」CFなど、編集工学をもちいたクリエイティブマネジメントを展開する。
2020年、株式会社百間を設立。俳号はそ乃香、座右の銘は「一歩ずつ運べば山でも動かせる」(白川静)、モットーは「迷ったら未知なるものを選ぶ」。 -
百間の土発力に寄せて
和泉佳奈子はぼくのマネジメント・エディターだった。山が好きでニホンザルの研究をしていたので、大学院を出てすぐに飛びこんできた和泉を「かわいい今西くん」と呼んでいた。酸いも甘いも何でも引き受けられる。だからマネジメント・エディターであって、代貸なのである。
この代貸はあまりじっとしていない。どこにでも出掛けるし、だれとでも会う。じっとしないのは「今西くん」だからだが、そのわりによくベンキョーする。学習能力がべらぼうに高い。そこを見込んで本にまつわる仕事をいろいろ託した。すばらしい成果をあげた。本にまつわることをブックウェアというのだが、本は和泉と相性がいいのだろうと思う。海外でも必ず書店や図書館や本の見本市に行っている。ダナ・ハラウェイに『猿と女とサイボーグ』というすばらしい一冊があるけれど、このタイトルは和泉にこそふさわしい。
そう思っていたのだが、このところは「日本」が漲っている。日本にひそむ方法の開示にめざめたようだ。「日本という方法」はぼくの年来の研究テーマで、その一角に入ってきてくれたのである。これはいよいよ一人で立ち回りをしてもらったほうがいいなと感じていたら、折よく富田拓朗との出会いがあって「百間」をスタートすることになった。たいへんよろこばしい。富田は日本の珈琲界とITと世界のフェティッシュをつなげる「若利休」なのである。
百間が何をするかは和泉と富田のふるまい次第だが、きっといくつものセレンディップなことが迎えにくるだろうし、たくさんの協演者にも恵まれるだろう。ぼくはパトリオティズムをあえて「土発主義」と訳しているのだが、百間がかけがえのない土発力を見せることを希んでいる。そのうち近江の一角に不思議な狼煙が上がることだろう。
Profile
1944年1月25日、京都生まれ 早稲田大学文学部中退。編集工学者、編集工学研究所所長、イシス編集学校校長、角川武蔵野ミュージアム館長。1971年、工作舎を設立、オブジェマガジン「遊」を創刊。対極するテーマを出会わせる知識編集と先鋭的なグラフィズムによって、メディア界、知識人、アーティストたちに多大な影響を与える。1982年、フリーランスとなり松岡正剛事務所を設立。超ジャンル的なソロ活動を始めるとともに、NTT民営化にともなう「情報と文化」研究会の座長をつとめるなど、諸分野の研究成果を総合化するプロジェクトの数々を推進。
1987年、編集工学研究所を設立。情報文化と情報技術をつなぐ方法論を体系化し、その成果をメディアづくりやシステム開発、さまざまな企画・編集・クリエイティブに展開。一方、日本文化を独自の視点で読み解く著作やテレビ番組の監修も数多く手掛ける。2000年、ネットワーク上に壮大なブックナビゲーション「千夜千冊」の連載を開始。また同年、eラーニングの先駆けともなる「イシス編集学校」を創立し、編集工学にもとづくメソッドを幅広い層の人びとに伝授しはじめる。
近年は、知識情報の相互編集を可能とする「図書街」「目次録」、編集的世界観にもとづく書店空間「松丸本舗」など、本を媒介にした数々の実験的プロジェクトを展開。また、「日本という方法」を提唱し、文化創発の場として精力的に私塾やサロンを主宰。写真、アート、デザイン、書の目利きとしても定評があり、みずから書画、戯画、作詞、短歌・俳句などを手掛ける。 -
百間ここから
コンピューターを用い、プログラムを駆使すれば世界を操れることを覚えたのは12歳頃。満足感を覚えつつも社会との接点が増えるにしたがって、不自由さも感じはじめました。
世の中でお金を得るための方法が成り立つのは、世界には価値の設定があり、人々とその営みがそれをルールとして支えているからです。これは多様化という型において、体系化され、結局は統一化されようとしています。
日本という文化が永らく形作ってきた型は、これからの世界にとって着目すべき点の塊ですが、簡単に感じとることは出来ません。
変容してしまった文化の切片を、ひとつひとつ読み解かなくてはならないからです。
私が松岡さんに出会ったのは20代半ばでしたが、とても強烈な印象でした。このヒトの中はケオティックでありながら、整理整頓されている。そう思いました。ごちゃ混ぜでありながらも整理整頓されているのはインターネットも同じですが、未だ、インターネットは総体としての視点は持ち得ていません。
人間としての松岡正剛は、知のカオスそのものでありながらも、総体として端正な答えが導き出せるという希有な存在です。
沢山の欠片に飛び散ってしまっている日本文化のあらゆる要素をかき集め、それらを再解釈・再構築しうるとしたら、この「松岡正剛という方法」を用いる以外無い。それが私の考える、この国の文化をより深く拓き、紡いでゆくための唯一のソリューションでした。
そのソリューションにおける、イグニションキーには、百間という組織があり、その冠をつとめる巫女役として和泉佳奈子がいる。古代日本にならった文化圏構築のための条件は整っていました。
和泉佳奈子の神懸かりは、人の世の「あいだ」を観て、つなぎ、広げ、そして動かすと言います。その舵取りはときとして、時空を飛び越えてしまうこともあるかも知れませんが、そこでは錨の役割や、ジェット噴射燃料の役割として(株)百間を支えて行ければと思っています。
経済的価値に本質的価値が追いついてきたときにこそ、百の「あいだ」が、あたりまえの日常に感じられるようになると信じています。
Profile
1971年 京都府生まれ。コードクリード代表取締役社長、百間取締役企匠百間。機械語を含む10以上のプログラミング言語を自在に操るプログラマとして、インターネット黎明期に数多くのサービスを立ち上げる。ほかにも写真家、デザイナー、CGIアーティスト、経営者、投資家、コーヒーエバンジェリストなど幅広い肩書きをもつ。